NPO法人ミュージックソムリエ協会

インタビュー 斉田晴仁氏

斉田晴仁さん

斉田晴仁



―斉田先生は、耳鼻咽喉科の医師でありながら声楽もなさいます。医学と音楽の両方に関わることになった経緯をお話いただけますか?

「親が歌好きだったし、自分で言うのもなんですが、幼い頃から声が良かったんです。キリスト教系の幼稚園に通っていた頃から、クリスマスなど行事のたびにソリストとして歌っていました。小学校の音楽会でも独唱していたので、将来は音大に行って声楽家になろうと思っていた。でも医師だった親が、音楽家として成功するのはとても厳しいことだから、まず医学を勉強したらどうかと。それで、医師になって声の科学を研究しようと決めたんです」


―ご両親が音楽好き、声が良く才能にも恵まれ、さらにお医者様のご家庭ということで、とても自然に音楽と医学を両立されてきたのですね。

「ええ、小さい頃からオペラに接するような環境だったので、それには感謝しています。中学生の頃から声に関する本をたくさん読んでいたのですが、日本で手に入る本のほとんどが主観的で科学的な根拠が薄い。医者になったらちゃんと研究して、自分で本を書こうと、子どもながらもそう思っていました」


―現在は、まさにそのご執筆が進行中なのですね。大学時代にも歌は続けていらっしゃったのですか?


「医者になって1年目の研修医のときに、二期会の試験を受けたんです。そうしたら合格してしまって、週に3日は5時に医局を出て、歌の練習をしていました。当時の耳鼻科の主任教授が音楽に理解のある方だったおかげです」


―二期会オペラスタジオ30期研究生のテノールとして、歌いながら耳鼻咽喉科の研修をされたのですね。イタリアに留学されたのはそのあとですか?


「結婚と同時に、声楽家の妻がイタリアに留学することになって、一緒にミラノに行ったのです。パヴィア大学耳鼻咽喉科で、Galioto教授のもとに喉頭癌手術を、パードヴァ大学では、Croato教授のもとで音声言語医学ならびに歌手の音声障害を、Torino大学では、Schindler教授のもとで、オージオロジーならびに歌手の音声障害について研修しました。たくさんオペラを観たし、その合間に貧乏なロシア人歌手が“喉を診てくれないか”とやってきたりして、“音楽と喉”が、自分にとってよりいっそう分けられないものとなりました」


―イタリアでベルカントの本場の発声を聴き、その喉を診る。すごいことですね。また、男性医師には、女性の声や身体のことはなかなかわからないと思うのですが、奥様が歌手でいらっしゃるので、その研究もできる。歌の実践と研究が診療に還元されるという理想的な状態ですね。先生が診察なさった歌手の症例は5千を超えるそうですが、日本の歌手の問題点はどのようなことだとお考えですか?


「問題点は基本的にはないんです。いろいろな声があって、いろいろな出し方がある。それは本人の自由です。声も文化ですからね。そして喉を壊して声が出なくなったときが、僕たち医者の出番です。壊したらいらっしゃい、治しますからというスタンスですから、結果オーライですね」


―でも、できたら喉は壊さないほうがいいですよね。そのためには声の出し方をもっと皆が知る必要がある のでは?

「定期的にレクチャーやコンサートをし、そこで声が出るメカニズムを解説したり、声の健康のためにはどうすればいいのかをお話ししています。ここに来る患者さんには学校の先生が多いんですよ。声の啓蒙の根本は学校教育ですね。だから教育の中で声を良くしていくようなアイディアを出していきたいと思っているんです」


―本当にそう思います。学校で教師の声が変わったら学級崩壊がおさまった、などという実例もありますから、発声も含めて話し方を訓練するシステムが教育現場にほしいですね。

「学校だけでなく、保育園・幼稚園から始めてほしいと思います。私は保育士にも指導しているのですが、声が変わったら、子どもたちが活発になり、よく話すようになったそうです」


―声の影響力はとても大きいものだと思います。現在の取り組みに加え、これからどのようなことを目指していかれるのでしょうか?

「声は呼気と声帯振動と共鳴の3つで決まります。けっこうシンプルなんですよ。この3つの組み合わせをコントロールする、その理屈がわかれば声は出るんです。応用はいろいろあるけれど、基本は単純です。理屈を知っていたら、そんなに間違った方向には行かない。知らないからポリープを作ったりしてしまうんです。だから僕は、声の科学的な基礎理論をレクチャーや本で広めることで、皆さんのお役に立ちたいと思っています。僕は歌手やアーティストの味方ですから、彼らの健康を守るためにも、マスメディアを含めて“声の健康”を知っていただくことを願っています」

―ミュージックソムリエ協会と音・人・研究所も、まさにそう願っています。声の啓蒙をぜひご一緒に広めさせてください。本日はありがとうございました。


取材・文 山崎広子



斉田晴仁氏プロフィール

さいだ・はるひと ●医学博士、日本耳鼻咽喉科学会専門医、日本気管食道科学会認定医、昭和大学医学部兼任講師。同耳鼻咽喉科教室へ入局。日赤医療センター耳鼻咽喉科研修医,を経て1984年12月よりイタリア留学。帰国後、東大音声研では、研究生として音声医学の研究、大学関連病院では音声の臨床に従事。1996年4月、さいだ耳鼻咽喉科気管食道科クリニックを開院。声の科学的な研究を行うヴォイステック音声研究所を併設。歌手などの音声障害症例数は日本トップクラス。「歌い、研究し、診察する」ことをモットーとする。声の健康の啓蒙活動「あなたの声を良くするレクチャー・コンサート」は2012年6月現在までに11回開催。
 

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